口腔内とピロリ菌の関係

私たちが歯科医院での血液検査を実施するようになって一番驚いたことは、ピロリ菌感染を私たちの予想より多く見つけることでした。一般の血液検査に加えてピロリ抗体とペプシノーゲンの検査を実施していますが、10代、20 代の方にもピロリ菌感染を見つけることがあります。

今回は、ピロリ菌感染がなぜ歯科領域に悪影響を及ぼすか、実際の症例から得た経験を踏まえご紹介させていただきたいと思います。

ピロリ菌感染者の特徴としては胃の粘膜の萎縮が疑われます。胃粘膜の萎縮が起こると胃酸の分泌がうまく行えないためにタンパク質の消化が難しくなり、これが胃もたれの原因になっていることが多くあります。

胃酸の分泌がうまく行えていないために胃もたれが起こっているのに、胃酸が多すぎてムカムカするのだと思い込んでしまう方も多く、胃酸抑制剤を市販薬で常用していることもあります。こうなるとますますタンパク質の消化吸収能力は下がっていくことになり、悪循環になっていることが予想されます。

タンパク質はご存じの通り、歯や歯茎、そして唾液にとって、とても重要な栄養素であることから、タンパク質がうまく消化吸収できないということは、口腔内のトラブルに繋がっていきます。

次に、胃酸は亜鉛や鉄、カルシウム、ビタミンB12 を吸収されやすいかたちにするために不可欠なものであるため、ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮、胃酸の分泌の低下はこれらの栄養素の吸収も下げてしまうということになります。

歯茎に多く含まれるコラーゲンの合成には鉄が不可欠ですし、粘膜の再生や維持には亜鉛がとても重要です。ビタミンB12 は歯科領域においてはハンター舌炎との関係が有名だと思います。

歯周病の所見がありその診断をする場合に、一つの原因としてピロリ菌感染を疑うことを歯科で行うことができれば、例え採血のシステムがない歯科医院でも医科への紹介状にて検査を依頼することは可能です。これまでの経験から、ピロリ菌除菌を実施して除菌できたつもりでいる患者さんの中に、除菌できていない方もいらっしゃることがわかり、除菌の効果判定や再感染のリスクについても知らせる必要があると思っています。

栄養療法を実施している医師の話によりますと、呼気での効果判定だけでは見逃してしまうケースがあるそうで、様々な方法を組み合わせて除菌の効果判定を確実に行うことが大切だということです。ピロリ菌は除菌しただけでは胃癌のリスクは下がらないという発表もあり、除菌後の胃粘膜の改善がポイントになるとのことで、そこに栄養療法が重要となってきます。

最近発表された論文ではピロリ菌は口腔内ではカンジダの中にすっぽりと包みこまれて生息していることがわかり、除菌をしてもこれが口腔内に生き残ることが再感染の原因ではないかと書かれていました。

それでは歯科で何ができるかというと、ピロリ菌感染がわかった場合、除菌前には歯科での除石やPMTC を徹底するアプローチも必要となってくると思います。

栄養素(サプリメント)としては、L-グルタミン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ファイバーなどのサプリメントを除菌前、除菌中、除菌後も使用します。

いずれにしても口腔内にもとても重要な栄養素であることを患者さんに説明し、医科歯科連携の中で効果的に栄養素を使っていきます。胃粘膜の萎縮は舌の所見に現れることも多いため、舌の状態や不定愁訴からピロリ菌感染を疑うことも可能です。

治療にも前向きでプラークコントロールもいいのになぜかなかなか改善しない・・・という方に、ここ10年以上血液検査をおすすめしきたなかで、ピロリ菌感染や胃粘膜の萎縮を発見することが多く、これは歯科に深く関係するのではないかと考えています。ピロリ菌感染による胃粘膜の萎縮がある若い女性の場合には、タンパク質を自然と避ける食生活になっており、その結果、糖質量(糖類含む)の摂取の増加を招き、血糖値の調節障害や重度のむし歯、そして摂食障害を引き起こしていた方もいました。胃粘膜の状態が食の嗜好を作り出すこともあるということを考えると、ただ糖質コントロールのアドバイスをすることは現実的ではありません。

食の偏りが強い場合には胃の状態の把握が重要であり、これが歯周病や虫歯の予防にも繋がると当院では考えています。